何も無い世界。  全ての感覚すら無い世界。  わたしはその世界を漂う。  何も出来ずに漂う。  虚空を見つめ、ただ、漂う。  これは……何度も見た光景だ。  アナタノコタエハ、ココニアルノ?  わたしに語りかける者がいる。  何度も聞いた声だ。  「また……あんたか……」  わたしは少々うんざりしていた。  人影が現れる。  しかし、それは人影ではなく正真正銘の『影』。  何度も見た『影』だ。  ワタシノコタエモ、ココニアルノカナ?  そう言うと、『影』はだんだん消えていく。  「待ちなさいっ!」  わたしは消えゆく『影』に叫んだ。  「わたしの答えは自分で見つける! 自分の『想い』を貫いて! 自分の『道』を突き進んで見つけてみせる!」  さらに『影』を指さし続ける。  「あんたも自分の答えは自分で見つけなさい!」  『影』は満足そうに消えていった……。  ……ら……  再び静寂となった世界に、かすかに違う声が聞こえる。  …くら……  聞き覚えのある声……。  『さくらぁっ……!!』 「!!」  わたしはハッと目を開けた。  窓の外には過ぎゆく風景。  リズムよく流れてゆくコンクリート柱。  周りがやけに騒がしい。  隣で見覚えのある青い生物が何か呻いている。 「さくら……痛い……」  何故か、わたしの人差し指が青い生物の側頭部……いや、側面にめり込んでいる。  青い生物の顔は引きつり、全身は痙攣している。 「はよ……抜いて……」 「わわわっ! ごめんっ!!」  わたしは慌てて指を引き抜いた。  青い生物の側面はかなり陥没してる。 「そんな……いきなりやなんて……酷すぎるわ……わい、もうお嫁に行かれへん……」  青い生物は号泣していた。  っていうか、それはなんかやらしーぞ。 「さくらうなされてたから……はよ起こしたろおもたのに……いきなり指でブスッとか……わいそんなプレイ好きやない……」  それはどんなプレイなんだ……。  きょっ……興味なんかないよ! 「うにゅうごめんね……そうだ、さっき貰ったアメ玉あげるからそれで許してっ」 「そんな子供騙しに……それに貰ったっつーか強奪しとったやないかい」 「じゃあいらないのね」 「貰えるもんは貰う!」  立ち直り早っ!  わたしとこの青い生物……うにゅうは、現在とある場所に向かっている。  ここはその場所まで連れて行ってくれる電車、特急『最萌エクスプレス』の中。  今日は初日で参加者みんな揃ってるから、既に車内は前哨戦とばかりに宴会状態。 「みんな、もう好き放題やっとるな」 「まあ、この面子じゃ仕方ないわね」  わたしが言うのも何だけど、ちょっと騒がしすぎるかな? 「さくらが混ざらんだけマシか」 「どういう意味よ!」  言うが早いかわたしの拳がうにゅうの脳天にめり込んだ。  その衝撃でさっき陥没した凹みがきゅぽんっと戻った。  一体どんな構造になっているんだろう? 「痛い……」 「余計なこと言うからよ」  宴会は嫌いじゃないけど、今はそんな気分じゃない。  後方に消えゆく風景を眺めつつ、物思いにふけりたい時だってある。  ふと、さっきの夢の事を想う。 「……うにゅう」 「なんや?」 「わたしの『道』って何なのかな?」 「なんやねんな……それ?」  わたしは夢のことをうにゅうに話した。 「『道』か……」 「うん」  うにゅうは少し考えた……ように見えた。 「考えとるわい!」  うわっ! 読まれた。 「まあ、なんやね……」  うにゅうが口を開く。 「そりゃ誰しもが持ってて、誰しもが自分で見つけなあかんもんやね」  うにゅうが続ける。 「わいもそうやし、ここにおる面子もみんなそうや。 それぞれが持ってて、進むべき『道』や貫くべき『想い』があるんや」  わたしは黙って聞いていた。 「それは誰にもわからへん。 自分でしかその『想い』は表現でけへんし、『道』も見えてけぇへん。 もしかしたら、これ読んでるあんさんもそうかもしれんで?」  あんさん? 「うにゅう、誰に言ってるの?」 「ひ・み・つ・やっ」  キモッ……。 「キモうて悪かったな!」 「なんで聞こえるのよ!」 「それくらい付き合い長いからわかるわい!」  本当に……この腐れ縁ときたら……。 「まあ、それでも……」  うにゅうは電車の天井を見つめながら言った。 「今回のイベント、それぞれの『道』とか『想い』とか、見つめ直すええ機会やと思うで」  「そう……だね」 「ここは企画してくれた主催さんに感謝やな」 「うんっ!」  わたしとうにゅうは向き直り微笑み合った。 「無論、楽しむこと前提や!」 「モチのロンですよ!」 「さくら……それ古すぎ」 「うるさいよっ!」  戦いの勝ち負けとかよりも、それぞれの『想い』が大事。  きっとその『想い』は力になり、その先に『道』は開かれる。  わたしも見つけよう! その『想い』を! その『道』を! ---  『ご案内します。 只今もどき駅を定刻通り通過いたしました。 あと10分で、終点最萌会場前です』 ---  列車は走る  激戦の地、トーナメント会場へ  その先に、見えるものは何か  それはまだ誰にもわからない  己が想いを力に変え  楽しもう! この宴を!  今、伺か最萌トーナメントの幕が開かれる